ハンガリーでの撮影
近年制作されたハンガリー映画の名作
ハンガリー映画のユニークな世界のインサイト
最終更新日: 2020年05月21日
最終更新日: 2020年05月21日
ソビエト時代はハンガリー映画が繁栄するために様々な環境が整えられましたが、厳しい政治的境界内にあったため、20世紀半ばに多くのハンガリーの映画製作者が西側に移住しました。政治改革の後は、2008年の金融危機により、この国の映画製作の将来はやや疑問視されていました。
しかし、ここ数年で嬉しいことに映画製作の新たな波が起こり、多くのヒット作が生まれました。Progressiveが集めた名作のコレクションをご覧ください。
ソビエト時代はハンガリー映画が繁栄するために様々な環境が整えられましたが、厳しい政治的境界内にあったため、20世紀半ばに多くのハンガリーの映画製作者が西側に移住しました。政治改革の後は、2008年の金融危機により、この国の映画製作の将来はやや疑問視されていました。
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ゾンダーコマンドの音と映像の旅
「サウルの息子」は、László Nemes Jeles監督によるホロコーストをテーマとした作品です。第一に、彼は死の収容所のガス室で働かなければならなかった囚人のグループであるゾンダーコマンドに焦点を合わせました。第二に、ホロコーストの恐怖を単純に描写するのではなく、むしろ主人公にまつわる出来事と共に視聴者を暗い旅に誘う、前例のない視覚効果を作り出しました。
この映画は35mmフィルムを4:3の比率で撮影し、クローズアップを多用しつつカメラを主人公の目線に置き、狭い視界を保つことによってリアルな視覚効果をもたらしました。このようにして、見るものは恐ろしい場面の中に引き込まれ、もはや一視聴者として暴力を客観することは出来なくなります。この視覚効果は、優れた音響効果によって更に深められ、視聴者もコマンドメンバーの1人であるかのような印象を与えることに重点が置かれました。独創的で深いこの映画がオスカー賞を受賞したのも不思議ではありません!
第二次世界大戦の終わりに直面する方法
第二次世界大戦に関する出来事を扱ったもう1つの映画は、Ferenc Török監督の「1945年」です。2017年に制作されたこの映画は、ハンガリーの田舎の村の住民たちがユダヤ人を国外追放し、財産を没収した実話を扱っています。この話が他の戦争映画と違うのは、 これらの残虐行為が戦時中に行われたことではなく、戦争の終結とハンガリーの敗北の後に起こったということです。戦争で生き残ったユダヤ人が故郷の村に戻って没収された家に再び住み、犯人の隣に住むときに起こる複雑な問題を提起しています。誰もが自分の良心の呵責に悩み、コミュニティでの役割に疑問を持ち、問題に直面することでしょう。
この映画がなぜこんなにも重要なのかというと、第二次世界大戦の際にハンガリーが直面した難しいシチュエーションを如実に描写しているからです。白黒の映像がシリアスなテーマを更に暗いものにしています。
ハンガリー人になるために
「市民/The Citizen」は、2016年にRoland Vranik監督によって制作されました。難民危機の真っ只中、何千人もの人々がハンガリー経由で西ヨーロッパに逃げました。この映画は、難民を取り囲む人々の人間性への問いをテーマとしており、2人の難民と1人のハンガリー人を中心にストーリーが展開されます。最近の非人道的な風潮の時代に、非常に人間味のある印象的な映画に仕上がっています。シンプルなのに完璧で、予測不可能で、型にはまっていません。
ムンドルツォ監督の代表作
2014年に制作されたムンドルツォ・コーネル監督の映画「ホワイトゴッド 少女と犬の狂詩曲」は、カンヌ映画祭の「ある視点賞」を受賞しました。型にはまらない特徴として、主人公が混血犬であり、飼い主である少女に愛されているということです。彼女が父親と一緒に引っ越すことになると、犬は路上に捨てられてしまいます。数え切れないほどの辛い冒険ののち、犬は自分自身を解放し、他の犬と共に残酷な人間たちに対して革命を企てます。
ようやく自由になった数百匹の犬たちがブダペストの街を駆け抜け、人間たちに報復します。ブダの丘のトンネル内を大量の犬が走っている光景は圧巻です。弱者が自由になり、神のような権威である人間に報復するというユニークな物語です。
Roland Vranik監督の「市民/The Citizen」の1年後、ムンドルツォ・コーネル監督は、「ジュピターズ・ムーン」と呼ばれる難民危機をテーマにした映画を撮りました。この映画には、ハンガリーの10代のシリア難民が登場します。彼は紛争で致命的な傷を負い苦しんでいましたが、奇跡的に生き残っただけでなく、飛ぶという超人的な能力を身につけました。映画の中でブダペストのさまざまな魅力的な場所を飛ぶシーンでは、上空からの非常に美しい景色を見ることができます。現実をただ描くのでは平凡な物語になりがちなテーマを、あえて“奇跡”を取り上げることによって現実の危機的状況に光を当て、超越的な方法によって難民問題を描き出しています。
食肉処理場での夢と愛
2017年に公開された「心と体と」は、食肉処理場で働く二人の男女をフィーチャーした美しく切ないラブストーリーです。象徴的であり慈愛に満ちたエニェディ・イルディコーのこの作品は、間違いなく最近作られた中で最もスピリチュアルで精神的なものの1つです。ベルリン国際映画祭で最高賞である金熊賞を受賞し、オスカーにもノミネートされ、主演のアレクサンドラ・ボルベーイは欧州映画賞で欧州女優賞を獲得しました。
さまざまな世代への詳しいインサイト
2016年の映画「 It's Not the Time of My Life」は、2組のカップルとその子供たちがアパートで一時的に一緒に暮らさなければなった緊張を密に描いたものです。興味深いのは、映画全体を通して監督のHajdú Sabolcsの住居でのみ撮影されたことです。カルロヴィヴァリ国際映画祭では、クリスタルグローブ賞および最優秀俳優賞を受賞しました。これは、特定の世代の暮らしを正直で率直に描いたものです。
これに似た映画は、国立演劇映画芸術専門学校の卒業制作としてReisz Gábor監督が撮った「For Some Inexplicable Reason」です。2014年に公開され、トリノ映画祭ではユニークで遊び心のある映画として複数の賞を受賞しました。すると、監督と主演俳優によって作られたユーモアと音楽は、すぐにハンガリーのミレニアル世代のお気に入りとなりました。
集団のパワー
「合唱/Sing」は2016年にオスカーを受賞したハンガリーの短編映画です。Deák Kristófが監督したこの作品は、コミュニティの中で権力の不条理に立ち向かう姿を描いています。舞台は1991年に設定され、その歴史的および政治的側面を強調しています。
これらの映画は現在の問題やハンガリーの歴史の未解決の問題などを反映したものです。テーマが際立っているだけでなく、それぞれの映画の言語とスタイルも独特であり、このことからハンガリーは監督だけでなく、DOPやサウンドデザイナー、そして素晴らしいロケ地など、どれをとっても豊かであることを証明しています!
世界で認められたタル・ベーラ監督
「タル・ベーラ監督は映画界で最も冒険心のあるアーティストの1人であり、『サタンタンゴ』や『ニーチェの馬』などの彼の代表的な映画は、人々を夢中にさせ、心の中で反芻し続けられる映画です。」とマーティン・スコセッシ監督は語っています。
彼のキャリアは10代の頃にアマチュア映画製作者として始まり、1981年には長編映画を製作し、22歳で国立演劇映画芸術専門学校に入学しました。彼の映画はドキュメンタリースタイルで、主にアマチュアの俳優を起用し、野外で撮影しました。1980年代後半、彼は独自のスタイルを作り出し、作家のクランスナホルカイ・ラスロや作曲家のヴィグ・ミハーイとの共同制作を始めました。彼の映画の不条理さは、ドキュメンタリー映画の感性を超えています。タール監督のトレードマークである映画の特徴としてすぐに世界中に知られるようになったのは、ハンガリーの田舎に存在する絶望的な人物の、暗く、白黒の、ゆっくりと過ぎてゆく腐敗の世界です。狭いカメラワークと非常に長いアクションや、特に物語のないシーンなどは、タルコフスキー監督の作品に似ているように見えるかもしれません。しかし、表面的にのみ、精神性に欠けるクリスチャンの世界であることが、彼の強力でユニークな映画のスタイルに繋がっています。暗い情景は、ソビエト時代後期のハンガリーで一般的であった、悲観的で冷笑的な考え方として読みとることもできます。彼はこのスタイルで7本の映画を監督し、その中で最も有名なのは間違いなく「サタンタンゴ」でしょう。
彼は最初の映画のデビュー以来、映画製作者や批評家の間で国際的な称賛を受け、世界的な注目を集めてきました。彼はミロスラフ・クロボットとティルダ・スウィントン主演で2008年に「倫敦から来た男」を撮影し、その年のカンヌ映画祭でも特集されました。彼の最後の映画である「ニーチェの馬」は2011年に初公開され、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しました。その後、彼は長編映画の監督を引退すると宣言しました。当時56歳でした。彼は自分がやりたいことやり切ったと信じていたので、同じような映画を撮ることで誰も退屈させたくないと、引退を決意したのでした。その後、2013年から2016年の間にサラエボに映画専門学校を設立し、教鞭を執りました。 2017年に、彼はアムステルダムで難民危機と人間の尊厳についてのインタラクティブな映画の展覧会を催し、彼のライフワークを実現しました。彼は現在も国際映画教育に積極的であり、次世代の映画製作者を支援することを目指しています。
彼のトレードマークのスタイルは非常に顕著であるため、他の有名な監督を凌駕することも多く、このジャンル以外でも、自主制作映画の最も有名な監督の一人となっています。このことが、彼がガーディアン誌のリストでタランティーノ、アルトマン、アルモドバル、スピルバーグなどの有名監督を抜いて、世界の40人の最高の映画監督で13番目に選ばれた理由です。
ある女性の日々の混乱
「One Day」は、ハンガリー映画財団の新人を支援するインキュベータープログラムの資金で2018年に作られた、シラージ・ジョフィア監督の最初の長編映画です。仕事をしながら家庭を持ち、3人の子供の世話をし、結婚の混乱に直面するヒロインの挑戦的な人生を描き出しました。官能的なサウンドデザインの使用、粗い編集や撮影方法が映画にリアルさを生み出し、カンヌ映画祭で国際映画評論家連盟賞を受賞しました。 ハリウッドレポーターが述べたように、シラージ監督は「...完全没入型の体験」を生み出しました。
クリミア戦争へ誘う旅
「Nine Month War」は、ウクライナに住む若いハンガリー人男性、ヤニの母親とガールフレンドとの物語です。 ウクライナ軍に徴兵され、ドンバスでの戦争の最前線で戦う男性を取り巻くドキュメンタリー映画です。
ドキュメンタリーは、ヤニが一人前の男になるための切符を手にしようと徴兵を受け入れることや、戦争の危険とヤニの不在の直面している家族の繊細な日常を描いています。また、この映画では、ヤニが家族に送るために正面から撮影した携帯電話のビデオ映像を組み込んだ実験的な方法を使っています。サラエボ映画祭の審査員賞を受賞したこの作品は、チュヤ・ラースロー監督の最初のドキュメンタリー映画であり、受賞歴のある長編映画も2018年に初公開されました。